品川区の「物価高対応子育て応援手当」は、18歳以下の児童1人につき2万円を支給する制度でした。申請の受付は令和8年4月20日で終わっています。いま手続きはできません。
ただ、終わったあとに確かめるべきことが残っています。区が見込んでいた人数と、実際に届いた人数が合っていないからです。
私は介護の現場に14年いました。その経験からいちばん気になるのは、そこです。制度は、作ることよりも「取りこぼさないこと」のほうがずっと難しい。
6万人に配るつもりで、5万7,691人に配った
この手当は、令和7年12月25日の文教委員会に補正予算として出されました(第144号議案)。そのときの資料には、こう書かれています。
| 区が見込んだ数 | |
|---|---|
| 支給見込 | 41,000世帯(児童60,000人) |
| 補正予算額 | 12億2,190万4千円(うち手当分12億円) |
| 財源 | 国の補助金 10分の10 |
一方、令和8年6月8日の文教委員会に出された「令和8年度事務事業概要」には、実績が載っています。
| 実際の数 | 見込との差 | |
|---|---|---|
| 支給件数 | 57,691人(37,667世帯) | 児童 −2,309人/世帯 −3,333 |
| 支給額 | 11億5,382万円 | −4,618万円 |
2万円 × 57,691人 = 11億5,382万円。計算は合っています。
予算に対して4,618万円、2,309人分が使われずに残りました。
ここで正直に書いておきます。給付金の支給見込は、足りなくなると困るので多めに置くのが普通です。ですから、2,309人全員が「もらえたのにもらえなかった人」だとは限りません。
ただ、それを「たぶん見込みの誤差でしょう」で済ませてしまうのが、いちばん危ないと思っています。
届き方が2種類あった
資料を読むと、この手当には受け取り方が2通りありました。
| 対象 | 見込 | 受け取り方 |
|---|---|---|
| 児童手当の受給者 | 35,000世帯(児童54,000人) | プッシュ型。申請不要 |
| 公務員 | 4,000世帯(児童4,000人) | 勤務先発行の申請書で申請が必要 |
| 新生児 | 2,000世帯(児童2,000人) | 児童手当認定済みならプッシュ型、それ以外は申請が必要 |
つまり、区が把握している児童手当受給者には黙っていても振り込まれ、それ以外のおよそ6,000世帯は、自分で気づいて動かないと受け取れない設計でした。
差が出るとすれば、この申請が必要だった側です。
申請が必要な支援は、必ず取りこぼしが出る
これは子育て分野に限った話ではありません。私は介護・障害の分野で、同じことを議会で質してきました。
令和6年7月29日の厚生委員会で、事業所向けの支援金について、区の担当課長から「申請を見送った事業者がいた」という答弁がありました。それを受けて、私はこう申し上げています。
「業務が多忙で申請ができなかったというところもあるでしょうし、全国展開しているところだと、東京都の職員だけ賃金が増えてしまうから、不公平になるからあえて申請しないという場合もあったりする」
「一番確認しやすいのは電話で、次がファクスで、一番見ないのがメールなのです。(中略)ぜひ様々な方法で周知をお願いできればと思います」
── 品川区議会 厚生委員会 令和6年7月29日
分野は違いますが、構造は同じです。制度を用意しただけでは届かない。届いていない人を数えて、追いかけて、初めて届く。
片手で2万円を配り、もう片手で保険料に上乗せしている
もうひとつ、書いておかなければならないことがあります。
令和8年4月から、国民健康保険料に子ども・子育て支援金という項目が新しく上乗せされました。令和8年2月24日の厚生委員会に出された条例改正の資料によれば、品川区では次のとおりです。
- 均等割 1,800円
- 賦課限度額 3万円
- 18歳未満の被保険者は10割軽減(全額免除)
- ただしその免除に要する費用は、同じ国保に入っている18歳以上の加入者が負担する。品川区の場合、一人あたり73円が均等割に加算される
子どもの分は免除されます。しかしその財源は、同じ国民健康保険の加入者から取られています。
正確に書いておくと、この支援金は国民健康保険だけのものではありません。区の資料にも「全国すべての医療保険者が、子ども・子育て支援金を拠出します」とあり、健康保険組合も協会けんぽも拠出します。
問題は、取り方が違うことです。会社員が入る健康保険は報酬に応じた保険料なので、子どもが何人いても保険料は変わりません。ところが国民健康保険には「均等割」があり、加入している人数に応じてかかります。自営業やフリーランス、非正規、年金生活の方が入る保険だけが、家族の人数で増える仕組みになっている。
私はこの委員会で、こう質しました。
「そもそも子育て支援金、子どもの子育てのために上乗せするというところでありながら、人頭税的に子どもへも負担をかけているということ、矛盾した状況のような気がするのですが、その辺についてはいかが受け止めていらっしゃいますでしょうか」
── 品川区議会 厚生委員会 令和8年2月24日
2万円の手当は、国が10分の10を出した一回きりのものです。保険料への上乗せは、毎年、これからずっと続きます。しかも国の説明では、この支援金は令和8年度から段階的に引き上げられ、数年かけて規模が大きくなっていきます。
一回2万円を配って、毎年取り続ける。私はこれを「子育て支援」と呼ぶことに、強い違和感があります。
公表資料では分からなかった3つのこと
ここまでは、すべて区が公表している資料から読み取れることです。しかし肝心なところは、公表資料では分かりませんでした。3つあります。
- 支給見込60,000人に対し、実績57,691人。この2,309人の差は何か(見込みの精度の問題なのか、対象だったのに受け取れなかった人がいるのか)
- 申請が必要だった約6,000世帯のうち、実際に申請したのは何世帯か
- 申請がないまま期限が近づいた世帯に対して、区は個別に勧奨したか。したなら何回、どの方法で行ったか
この手当は令和7年度の補正予算で組まれた事業です。ということは、今年の決算特別委員会が、執行状況を確認できる場ということになります。
上の3点を、そこで質します。答弁が出たら、この記事に追記します。
もし「対象だったはずなのに振り込まれていない」「申請書が届かなかった」という方がいらっしゃいましたら、私までお知らせください。個別の事情ほど、決算の質疑では効きます。
冒頭に書いたことをもう一度書きます。制度は、作った時点ではまだ「支援」ではありません。届いて初めて支援になります。予算に残った4,618万円が何だったのか、うやむやにするつもりはありません。